【人生100年時代コラム VOL.11】薬、治療、検査……実は価値の低い過剰医療を受けていませんか?

風邪や湿疹に抗菌薬、軽い腰痛にCT検査……。その医療、本当に必要ですか?

2018/11/08

風邪や湿疹に抗菌薬、軽い腰痛にCT検査……。その医療、本当に必要ですか?

何種類もの薬や検査の多さにうんざりしたことはありませんか?「過剰医療」や「無駄な医療」が今、大きな問題になっています。医療における賢い選択―Choosing Wisely―国際的に広がる医療者と患者との新しいムーブメントをご紹介します。

  • 価値の低い“過剰医療”を受けていませんか?

    ある60代の女性は、こんな体験をしました――。咳と発熱があったので、薬局で市販の風邪薬を購入。風邪の症状はほぼ治ったのですが、たまたま予約を入れていたアレルギー性鼻炎の診察で、医師から「念のため」と5日分の抗菌薬(※一般的には抗生物質と呼ばれることが多い)を処方されました。

    真面目に飲み続けていたら、突然、激しい下痢と発熱が。診断は「偽膜性大腸炎」。抗菌薬の服用で腸内細菌のバランスが崩れ、大腸に重い炎症が起こったのです。結局、2週間の入院を余儀なくされました。

    「この方は最近、私が診た患者さんですが、不要な抗菌薬を処方され、思いもよらぬ副作用に苦しめられました。程度の差こそあれ、このような経験をした人は意外に多いのではないでしょうか。過剰な医療、エビデンス(科学的根拠)に基づかない医療、価値の低い医療が、まだまだ多いのが現状です」

    こう語るのは群星沖縄臨床研修センター長で総合診療医の徳田安春さん。徳田さんは、根拠が乏しいまま行われている医療を見直し、患者にとって効果が高く、害の少ない医療を実現していこうという「チュージング・ワイズリー・ジャパン(医療における賢い選択=Choosing Wisely Japan)」の発起人の一人でもあります。

  • チュージング・ワイズリー・キャンペーンとは?

    この活動は2012年に米国で始まり、日本では16年から始動。各国にも広がりを見せています。「米国では、この活動の一環として内科や外科などの学会に“無駄と思われる医療行為”を5つリストアップするよう求めました。これに多くの学会が賛同し、現在70以上の専門学会から約450項目が提出されています。この内容はホームページに掲載され、誰でも閲覧可能。自分が受ける医療が本当に必要か、賢い選択をする判断材料にできるわけです」(徳田さん)

    下のリストは、そこから身近な薬や検査の項目を選び出したもの。例えば、風邪を引いて病院に行った時、抗菌薬を処方された経験はありませんか? 抗菌薬は細菌を殺す薬ですが、実は風邪のほとんどはウイルスが原因。つまり抗菌薬で風邪は治せないのです。

    「効かないばかりか、冒頭の患者さんのように、ひどい下痢などの副作用が出ることも。また抗菌薬を使いすぎると、抗菌薬が効かない耐性菌が生まれます。耐性菌に感染すると治療が難しく、ちょっとした傷の化膿が原因で命を落とすようなことも起こり得るのです。もちろん、医療費もかさみます」と徳田さん。まさに百害あって一利なしです。

    では、なぜ医師は効かない抗菌薬を処方するのでしょうか。「じっくり診察をして『風邪だから薬はいりませんよ』というのと、数分間の診療で数種類の薬を処方するのとでは、医師にとってどちらの利益が大きいか。残念ながら、そんな経営的な事情から価値の低い過剰医療が行われているのが実情です」(徳田さん)

    薬だけではなく、検査も同様。頭痛で受診したら、いきなり脳のMRI検査、軽い腰痛を訴えたらCT検査……。これらも、実は過剰医療の一例といわれています。

  • 米国の学会で必要性が疑問視されている医療例

    米国の学会で必要性が疑問視されている医療例

    【 薬 】

    ・風邪に抗菌薬
    ほとんどの風邪やインフルエンザは、ウイルスが原因。ウイルスに抗菌薬は効かない上に、副作用のリスクも。(米国感染症学会)

    ・湿疹に抗菌薬
    かゆみや赤みの改善効果はない。抗菌薬が必要なのは、膿や皮膚の熱感などの細菌感染症状がある時だけ。(米国皮膚科学会)

    ・高齢者の無症候性(症状のない)細菌尿に抗菌薬
    高齢者では感染がなくても尿から細菌が検出されやすく、抗菌薬は不要。排尿時の痛みや灼熱感があれば必要。(米国老年医学会)

    ・頭痛薬の使い過ぎ
    市販の痛み止めを飲み過ぎると重篤な副作用のリスクが。また痛みに過敏になり、「薬剤乱用頭痛」を招くことも。(米国頭痛学会)

    ・75歳以上にコレステロール低下薬(スタチン)
    高齢者では高コレステロール値が心疾患や死亡につながる根拠が明確でなく、筋力低下等の副作用も。(急性期後及び慢性期ケア医学会)

    ・関節リウマチの第一選択薬
    少なくとも最初の3か月間は、生物学的製剤ではなく、従来からある非生物学的製剤を試すべき。(米国リウマチ学会)

    ・高齢者の不眠に睡眠薬
    睡眠薬を飲んでも、ほんの少しよく眠れるだけ。若い人より副作用が出やすく、転倒や骨折などのリスクも。(米国老年医学会)

    米国の学会で必要性が疑問視されている医療例

    【 検査 】

    ・危険な兆候のない腰痛に対するCT・MRI検査
    危険な兆候を伴わない腰痛は、大抵1か月程度でよくなり、CT・MRI検査は不必要。不要な手術につながることも。(米国家庭医学会)

    ・頻度の多い大腸内視鏡検査
    ほとんどの人は10年に一度でよい。大きなポリープ発見やがん化を疑われる場合のみ、5年ごとの検査を。(米国消化器病学会)

    ・一般の人へのPET-CT検査
    がんやその疑いがある人には必要だが、それ以外では不要。一般向けがん検診には推奨されない。(米国核医学・分子イメージング協会)

    出典:Choosing Wisely(米国)、Choosing Wisely Japan

    これらの処方や検査は過剰医療の疑いがありますので、医師と十分に話し合った上で受診されることをお勧めします。

とくだ・やすはる

徳田安春(とくだ・やすはる)さん
群星沖縄臨床研修センター プロジェクトリーダー兼センター長
1988年、琉球大学医学部卒業。沖縄県立中部病院、聖路加国際病院などを経て、現職。JCHO本部顧問、筑波大学客員教授、獨協大学特任教授なども務める。総合診療の第一人者。後進の指導にも当たる。

※この記事は、「ハルメク」2017年8月号 健康特集『その医療、本当に必要ですか?』を再編集しています。
取材・文=佐田節子
コンテンツ提供:ハルメク