【人生100年時代コラム VOL.12】認知症にこそもっと笑いを!

認知症に落語!? 負のイメージを笑いで吹き飛ばす

2018/11/15

認知症に落語!? 負のイメージを笑いで吹き飛ばす

認知症は怖い病気、不幸だという暗いイメージがつきもの。でも、認知症には「笑い」がよく効くことをご存じでしょうか。笑いには、患者や家族を癒やすだけでなく、認知症を予防する力もあるようです。自ら高座に上がり、“認知症落語”を披露する廣西昌也医師に話を聞きました。

  • 笑って予防。認知症への負のイメージを笑いで吹き飛ばしたい

    笑って予防。認知症への負のイメージを笑いで吹き飛ばしたい

    演目は、認知症になった妻と介護する夫とのやりとりを描いた『忘れても好きな人』

    大川亭可流亭(おおかわていかるて)――。和歌山県立医科大学で認知症外来を担当する廣西昌也さんの芸名です。子どもの頃から落語が好きで、5年前、大阪の天満天神繁昌亭で落語入門講座を受講。最近はアマチュア落語家として、“認知症落語”にもチャレンジしています。

    「認知症の講演会のときなどに、認知症をテーマにした創作落語を披露しています。病気の知識や予防法、患者さんや家族の心情などを盛り込んだ内容です。認知症の予防には、病気のことをよく知ること、そして笑うことも大事。よく笑う人は認知症になりにくいという報告もあるんですよ」と廣西さん。

    笑いは患者さんや家族と接する外来診療でも、とても大切だそう。「認知症の患者さんは、常に“NO”の世界に生きています。『こんなことしたらいかんよ』と周りからはNOばかり。緊張の連続で交感神経が高ぶり、いつも臨戦態勢のような状態です。それをほぐしてくれるのが、笑い。笑うと一気に副交感神経が優位な状態へと切り替わり、リラックスできる。怖い顔で診察室に入って来た患者さんも心配顔のご家族も、帰るときには笑顔でいてほしい。落語で学んだ話術が診療にも役立っています」

  • 落語で笑って共感して、ほろり…

    認知症落語を始める際、心配したのは観客の反応でした。「認知症の人を馬鹿にしているなどと受け取られたら……と最初は心配もしましたが、幸い、そういう反応はなかったですね。実はこのテーマで落語を始めた背景には、認知症をタブー化させたくないという思いもありました。

    例えば“ボケ”という言葉は絶対に使ってはいけないという専門家もいますが、私は文脈次第だと思っています。落語の人情噺として、『誰でもボケるんや、みんな一緒やないか』と言えば、『そやそや』とうなずいてもらえる。落語ならではの言い方、伝え方が効くんですね。落語を通して“スティグマ感”を消していきたい。そんな野望もあるのです」

    スティグマとは、否定的なレッテル付けのこと。認知症は怖い病気、不幸だ……といった負のイメージが社会にはまだ根強い、と廣西さん。

    「認知症をタブー化すると、スティグマ感はもっと強くなります。だからこそ認知症のことを取り上げて、みんなで笑ったり、しみじみ共感したり、ちょっとほろりとしたり……。落語だからこそ伝えられること、できることがあると思うのです。これからも精進します!(笑)」

    笑うとリラックス神経が優位に
  • 笑いの効用をいくつかご紹介します

    リウマチの痛みと炎症が軽く
    慢性関節リウマチの女性患者26人が1時間近く、落語を楽しみました。その前後で採血して調べた結果、炎症を悪化させるインターロイキン6やコルチゾールというストレスホルモンが減少。逆に炎症を和らげる物質は増えていました。もちろん、参加者は自覚的にも痛みが減り、気分がよくなったと答えています。この結果は国際的なリウマチ専門誌でも紹介されました。

    認知機能が低下しにくい
    笑う頻度が少ないほど認知機能が低下しやすい――。65歳以上の男女約1000人を対象に、笑う頻度と認知機能との関係を調べたところ、ほとんど笑う機会のない人は毎日笑う人に対し、認知機能低下のリスクが2.15倍高いという結果に。さらに、ほとんど笑わない人は1年後に認知機能が低下するリスクも3.6倍高かったそう。福島県立医科大学の大平哲也教授らの研究です。
    (出典:老年精神医学雑誌第22巻第1号2011)

    認知症の治療や予防、そして介護にも笑いが効果的なことがわかりました。笑いがあることで普段の生活にもハリと明るさが感じられそうですね。ぜひみなさんも取り入れてみてはいかがでしょうか?

ひろにし・まさやさん

廣西昌也(ひろにし・まさや)さん
和歌山県立医科大学附属病院紀北分院分院長、認知症疾患医療センター長。
1964(昭和39)年生まれ。和歌山県立医科大学卒業。専門は神経内科疾患全般、認知症疾患。総合内科専門医、日本神経学会神経内科指導医・専門医、日本認知症学会指導医・専門医、臨床瞑想指導者、笑いヨガリーダー。アマチュア落語家で、芸名は大川亭可流亭。短歌もたしなみ、第5回歌葉新人賞受賞。著書は『歌集神倉』(書肆侃侃房刊)。

※この記事は、「ハルメク」2017年1月号に掲載した記事を再編集しています。
取材・文=佐田節子
コンテンツ提供:ハルメク

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