【人生100年時代コラム VOL.18】相続を「争続」にしないために

相続会議でもめないコミュニケーション・テクニック

2019/01/10

相続会議でもめないコミュニケーション・テクニック

血縁関係があるがゆえに抑制できない感情、他人には言わないような言葉を発してしまうのがきょうだい喧嘩というものです。特に相続の話し合いがこじれると、「争族」や「争続」と呼ばれる泥試合につながります。親しき仲にも礼儀あり、きょうだいだから信頼関係があると思うのは、親子同様、きょうだい間の思い込みに過ぎません。これだけは言わないほうがいい言葉と、お互いを思いやる「心をつかむ魔法の言葉」とは何か? 相続会議を丸く収めるコミュニケーション・テクニックをご紹介します。

  • 相手を否定する言葉がすべてを台無しにする

    相手を否定する言葉がすべてを台無しにする

    相続に関して問題になることの一つが、きょうだい間の争いです。濃い血縁があるがゆえの歯止めのきかない言葉の応酬、抑制しきれない感情の噴出、他人にはそこまで言わないだろう売り言葉に買い言葉が行き交うのが、相続会議にありがちな光景です。

    それは相続という金銭が絡むことで、「血縁」ということが、むしろ他人との争いよりも一生修復できない深い溝を生んでしまうことが多いようです。単にお金の問題にとどまらず、資産というお金の分配によって、親からの愛情の不公平感を助長するとも言われています。「兄貴のほうがかわいがられた」「いつも妹ばかりちやほやされていた」など、エキサイトすると心のくすぶりは幼年期にまでさかのぼります。

    「親しき仲にも礼儀あり」は、まさに家族間のコミュニケーションでこそ意識してもらいたい要素です。家族が相続を円満に乗り切るために、話し合いの時に実践してもらいたいコミュニケーション・スキルをいくつかご紹介しましょう。

    一つ目のスキルは、自分の意見を伝えるときに「でも」「しかし」「いや」「そうじゃなくて」などの言葉を使わないことです。私たちは、相手と違った意見を伝える場合、話し始めの言葉に無意識になりがちです。

    「でも」「そうじゃなくて」などから話し始めると、相手には、自分の主張や意見に対してこれから反論や否定が始まるのだと伝わり、相手は身構えてしまいます。そして相手もそれを受けて同様に「でも」「しかし」から意見を言うようになり、お互い「反論」「説得」「押し付け」のコミュニケーションという負のスパイラルがスタートしてしまうのです。

    こうなるとお互いの意見に耳を傾けるどころか、いかに相手をねじ伏せて自分の意見を押し通すかに意識が集中するため、言わなくてもいいことまで口に出し、感情が先に立って効果的で実りある意見交換ができなくなってしまうものです。

  • 聴くスキルを磨き、相手に共感する気持ちを伝える

    聴くスキルを磨き、相手に共感する気持ちを伝える

    まずは相手の話を「否定」や「批判」をせずに最後まで聴くことが第一です。そして、自分の意見を伝えるときには、「でも、しかし」攻撃をしないことを実践してください。

    また、その時にもう一つ付け加えたいことがあります。それは、相手がどんな気持ちや考えの上で話をしているのかをくみ取りながら聴くことです。私たちが普段言葉にしているのは、頭の中で考えていることのほんのわずか。その裏にある、言葉にしていない気持ちや考えの方が実は圧倒的に多いものです。そして私達は残念ながらその裏側をくみ取る努力をしないまま、「だからね~」などと自分の視点で話し始めてしまうのです。相手はそれを素直に受け取るでしょうか?

    相手はきっと今こんな気持ちや考えで話をしているのだろうなと推察し、それを一つの言葉掛けとして最初に伝えたらどうでしょうか。例えば「辛いね」「大変に思ってるんだね」「その気持ちわかるよ」などの共感の言葉掛け。「共感」とは建設的に話を進めていく上で、実は重要なキーワードの一つなのです。

    例えば、相続会議で一番もめるケースとしてこのようなものがあります。長兄がきょうだいに対し、「俺に任せておけばいいんだ、悪いようにはしない」と言ってじっくり話をしないケース。しかし、ふたを開けてみれば、公平とはほど遠い内容で長兄がきょうだいに対して資産を分配し、「争族」が起きるというものです。

    このとき、弟や妹はどうしたらよいでしょうか。家督制度の時代ではありませんので、すぐに反論したいところですが、まずは相手を承認することが大事です。「さすが兄貴、いつもリーダーシップをとってくれてありがたい」。そして次に、自分の要求をやわらかく提案します。「ところで、こんないい方法もあると聞いたんだけど……。妹の意見も聞かせてほしいんだ、(妹に向かって)どう思う?」

    このように相手に対して、まず「承認」をしたうえで、ああしろこうしろと押しつけ的な意見や要求をせずに、あなたの意見を聞きたいから、私の提案も聞いてほしいという進め方で相手に考えを伝えると、相手は耳を傾けてくれます。

    また逆のケースとして、弟妹から長兄(長姉)に対し「いつもお兄ちゃん(お姉ちゃん)ばっかり」というフレーズもよく聞きます。そのとき、長兄(長姉)はどう対応すればよいでしょうか。「つらい思いをさせていたんだね、ごめんね」「そのようなことはないと思うし、そんな風に感じていたとするならつらいな」「お父さん(お母さん)の気持ちを裏切らないように(家族がこれでけんか別れしないように)こんな提案をしたいんだけど、ちょって聞いてもらいたいんだ。そして意見を聞かせてほしい」。こう言えたなら、会議は丸く収まる方向に向かいます。

  • 自分の気持ちをくみ取ってもらえる喜びの連鎖を育む

    自分の気持ちを汲みとってもらえる喜びの連鎖を育む

    親の「死」に繋がる相続の話は、誰だってワクワク楽しく話したいわけがありません。けれど、話さなくては先に進まず、解決しなくてはならない。その矛盾がストレスでもあり、言葉の裏にはさまざまな感情が通常よりも多岐に存在しているでしょう。まずは、それをくみ取る努力をしましょう。人は自分の言葉にしていない気持ちをくみ取ってもらうとやはり嬉しいものなのです。その気持ちを分かってくれているなら、こちらも話を素直に聴こうとするものなのです。喜びの連鎖を育み、皆が話を聴く姿勢にもっていくことが大事です。

    言い争いや嫉妬には、自分が正しい、問題を回避したいという気持ちが無意識に働いています。言葉の裏にある気持ちをくみ取り共感の言葉掛けをして、そのうえで自らの想いを伝えましょう。

    対立の構造からは何も生まれません。ほんの少しの心がけや意識を持つだけで、話し合いはプラスの結果を生み出すコミュニケーションへと変化します。相続という特別な状況だからこそ実践してほしいのです。誰かが意識を持つことで変えられるのであれば、その最初の一人になってみませんか。あなたが相続会議のかなめになって、心穏やかに遺産分割が進められたなら、亡くなった親御さんが一番喜ぶと思います。

ほりぐちみずよ

堀口瑞予(ほりぐちみずよ)
コミュニケーションデザイン代表 LABプロファイル®マスターコンサルタント、トレーナー&コーチ、日本コミュニケーション能力検定協会本部トレーナー、明治大学リバティアカデミー講師。日本航空客室乗務員訓練部教官を経て独立。立ち居振る舞い、プレゼン力、コミュニケーション力を向上させる総合的なイメージコンサルティングを提供。現在、企業や大学での研修や講演活動を行う。

コンテンツ提供:ハルメク