【人生100年時代コラム VOL.19】脚の血管が浮き出てきたら要注意
50歳以上の約6割がなる血管の病気「下肢静脈瘤」は、正しく知れば怖くない
2019/01/17

「脚の血管が浮き出て、見た目が気になる」「夕方になると脚がむくんでだるい」……その原因は「下肢静脈瘤」かもしれません。脚の静脈が正常に働かなくなることで発症し、放置しておくと確実に悪化します。しかし、対処法を正しく知れば、自分で進行を防ぎ治すことができます。
※この記事では、症例写真を掲載しています。
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心当たりはありませんか?下肢静脈瘤の危険度チェック
✓脚がむくむ、ときどきかゆい
✓こむら返りがよく起こる
✓脚が重だるく、疲れやすい
✓長時間立ち続けるか、座りっぱなしでいることが多い
✓妊娠・出産を経験している
✓運動をする習慣がない
✓お風呂は、シャワーで済ませることが多いこれに当てはまる項目が多いほど、下肢静脈瘤を発症する可能性が高まります。たくさん当てはまる人は、すでに症状が進んでいる可能性も……。今はまだ症状がない人も、このままの状態が続くと発症するかもしれないので要注意です。
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下肢静脈瘤は、どんな病気?
下肢静脈瘤とは、脚の静脈に血液がたまり、コブや模様のように浮き出てくる病気です。見た目の変化ばかりでなく、脚のむくみや重だるさ、こむら返り(脚がつる)などが起こることもあります。50歳以上で約6割、70歳以上になると10人いれば7人以上が患っている(※)、ごく一般的な病気です。
(※出典:脈管学,1989;28:415-420)「脚の違和感に気付いていても、『歳のせいだろう』『自分の脚はこんなものだろう』などと勝手に思い込み、何年も放置して症状を悪化させてしまう人が少なくありません」
こう指摘するのは、慶友会つくば血管センターのセンター長、岩井武尚さんです。
では、下肢静脈瘤はなぜ起こるのでしょう? 私たちの体内で、血液は心臓から動脈を通って体のすみずみに届き、そこから静脈を通って心臓に戻ります。脚の静脈は、心臓から最も遠く、重力に逆らいながら心臓に血液を戻さなければなりません。そこで、血液が足先の方に逆流するのを防いでいるのが、静脈内にある「弁」です。
「この弁が壊れてしまうと、血液が逆流して血管内にたまり、静脈を押し広げます。その結果、血管が太く曲がりくねったり、こぶのように浮き出てきたりするのです」と岩井さん。弁が壊れる理由は、はっきりとわかっていませんが、「歯周病を引き起こす細菌などが血液に入り込み、静脈の弁に付着して壊してしまうのではないかと考えられる」と話します。
症状が出ていても、落ち込まずに対処を
下肢静脈瘤が起こるのは、皮膚のすぐ下を流れる「表在静脈」です。「自分の脚の裏側や側面を見る機会はあまりないので、鏡を使ってじっくり観察してほしい」と岩井さん。下の症例写真も参考にしてください。「もし症状が出ていても、落ち込む必要はありません。ほとんどの場合、自分で治すことができます。ただし、自分で治せても、勝手に治ることはないので、しっかり対処しましょう」と岩井さん。
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下肢静脈瘤の4つのタイプ
- クモの巣状静脈瘤
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赤い糸のように細い血管が浮き出る。皮膚の中にある細い毛細血管にできる静脈瘤。加齢とともに増えるが、これが進行して重篤な静脈瘤になることはない。
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- 網目状静脈瘤
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太さ2~3㎜の青い血管が網目のように浮き出る。若い人のひざ裏でも見られることが多く、自覚症状の少ない静脈瘤。
- 分枝静脈瘤
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血管の一部がぼこっと浮き出る。伏在静脈から枝分かれした2~3㎜の静脈「分枝静脈」にできる静脈瘤。
- 伏在静脈瘤
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血管がぼこぼことうねるように浮き出る。ひざ下の内側に蛇行した大きな瘤が見られる「大伏在静脈瘤」と、ひざ裏の弁が壊れてふくらはぎに瘤が目立つ「小伏在静脈瘤」に分けられる。進行すると手術が必要。
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下肢静脈瘤の解消に役立つ日常生活での心がけ
長時間いすに座りっぱなしでいたり、お風呂をシャワーだけで済ませたりする習慣も下肢静脈瘤が進行する原因になります。今すぐ見直して、少しずつ下肢静脈瘤を改善していきましょう。
脚を少しでも高いところへ
脚の血液が少しでも心臓に戻りやすくなるように、横になるときは、脚の下にクッションや折りたたんだバスタオルを置き、脚を高くしましょう。かかとが少し浮くくらいの高さで十分です。高くしすぎると腰に負担がかかるので注意してください。
また長時間、いすに座るときは、別のいすの上に脚を置くなどすると脚の血流がよくなります。
シャワーよりも入浴で血流を促進!
ゆっくり入浴すると、体が温まって血行がよくなります。さらに水圧の作用で脚の筋肉が刺激され、筋ポンプの働きが促されるため、下肢静脈瘤対策には、シャワーだけで済ませず、湯船につかることが有効です。
弾性ストッキングや着圧ソックスを活用
弾性ストッキングは、脚に適度な圧力を与え、脚から心臓への血流をサポートします。足首に一番圧力がかかり、上へ向かうほど圧力が弱まる段階的な圧力構造になっています。基本的には医師の処方に従って採寸し、医療機関の売店や調剤薬局などで購入します(健康保険は適用されず、1組約4000円程度)。症状が軽い人なら、市販の着圧ソックスを使うのも手です。
弾性ストッキングは、昼間にはくのが基本。かなりきつく、普通のストッキングのようにははけないので、初めて使用するときは看護師など専門家に教わりましょう。長時間じっとしていなければならない移動や仕事、法事のときなどに着用すると、血栓症(血栓が静脈を詰まらせる病気)の予防にもなります。

慶友会つくば血管センター長
岩井武尚(いわい・たけひさ)さん
1942(昭和17)年生まれ。東京医科歯科大学卒業後、73年から米国留学。帰国後、東京医科歯科大学外科教授、血管外科診療科長、同大大学院教授を経て退職。2007年から現職。著書に『下肢静脈瘤・むくみは自分で治せる!』(学研プラス刊)。
※この記事は、ハルメク2018年3月号「健康特集」を再編集しています。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部)
コンテンツ提供:ハルメク