【人生100年時代コラム VOL.38】せっかく貯めたがお金が使えない!?

認知症になっても、資産を思い通りに使える「民事信託」とは

2019/6/6

認知症になっても、資産を思い通りに使える「民事信託」とは

民事信託とは、財産を持っている人が、自分が望む形でその財産を使えるようにするための有効な方法です。認知症などで判断能力が低下し財産が凍結されるような事態になっても、民事信託契約をしておくことで、本人や家族が希望するお金の使い方ができるようになります。

  • 認知症などで判断力を失うと資産が凍結される

    認知症などで判断力を失うと資産が凍結される

    シニア世代の多くが「生活維持」と「病気や介護になったときの万一の備え」として、貯蓄をしています。ところが、せっかく頑張って貯蓄をして備えていても、認知症などで判断能力を失ってしまうと、本人はじめ子どもや家族も、預貯金をおろすことができなくなります。また、介護費用のために親の自宅不動産を売りたいと思っても、子どもや家族では、代わりに売却をすることができません。その家を担保にお金を借りることもできなくなります。

    このように財産が「凍結」されてしまうと、介護の費用は子どもや家族が賄わなくてはならなくなります。せっかく親が努力して蓄えたお金を使えずに、子ども世代が住宅ローンや教育費などにお金がかかるなか、介護が始まってしまうと、親子共倒れになりかねません。そこで、成年後見制度を利用することで親の財産の凍結は解除されることになるのですが、実はこの制度は、家族や本人にとって、使い勝手がいい制度とはいいがたい部分が多いのです。

    「成年後見制度」は、本人の意思を尊重し本人自身の福祉や権利を確実に適正に確保するというのが制度の趣旨であるにもかかわらず、財産の管理の保全に偏りすぎている傾向があり、尊重すべき本人の意思が反映されないことも多々あります。認知症になっても今までと同じような暮らしをしていきたいと本人が願っても、現実的には、後見人は本人のお金をなかなか使おうとしません。よりよい介護を受けるために、不動産の売却をしようと思っても、裁判所の判断が必要になりますし、売却できたとしても、本人が元気な時に望んでいた老人ホームへの入所が認められるとは限らないのです。

    このような事態になる前に「民事信託」を利用することで、認知症などで判断力が低下しても、元気だった時に思い描いていたお金の使い方ができるのです。

  • 民事信託は私人と私人の間で交わされる契約行為

    民事信託は私人と私人の間で交わされる契約行為

    「民事信託」とは一体どのようなものなのでしょうか。信託と聞くと、信託銀行や証券会社が扱う投資信託のようなイメージをお持ちになるかもしれませんが、金融商品ではありません。私人と私人の間で交わされる契約行為で、この信託契約が家族間で交わされる契約行為を「家族信託」と呼びます。民事信託は信頼できる家族や親族、あるいは個人に財産の管理処分を託す「受託者」を選び、名義を受託者に変え、万一に備えます。民事信託契約は簡単な契約ではないので、コンサルティングのできる専門家(司法書士が比較的多いが特に法的な資格は必要ない)のサポートを受けて、家族で十分時間をかけて話し合い契約することが大事です。

    判断能力が衰えても、本人や家族が望む財産管理のために成年後見制度の任意後見を利用することもできます。任意後見人は、契約者本人が自分の決めたことを代理として任せるのですが、裁判所の管理下にあり、その代理行為には制約があります。しかし、民事信託の受託者は、単なる「代理人」ではなく、強い権限で財産を運用管理することができます。

    本人が元気なうちに、本人と受託者の間できちんと契約さえしていれば、判断能力がなくなった後でも法律行為としての不動産の売却や金融資産の運用などがほぼ思い通りにできます。さらに、自分亡き後の財産の管理や使い方そのものについても決めておくことができます。自分の死後の財産をどう使ってほしいかを決めておく手段として「遺言」がありますが、民事信託は遺言機能も持ち合わせています。

    また、認知症の妻のいる人が、自分亡き後に遺産分割協議をせずに、民事信託の遺言機能を生かして、妻が穏やかに暮らしていく仕組みを作ることもできます。
    ※民法が改正され、2020年4月1日以降の相続発生から配偶者の居住権が認められるようになりましたが、民事信託では、居住することだけでなく、配偶者のための資産の運用や活用も決めておくことができます。

  • 民事信託なら次の次の世代にも資産を承継できる

    民事信託なら次の次の世代にも資産を承継できる

    遺言でできることは、自分亡き後の一代限りの遺産相続だけです。ところが「民事信託」では、遺言で指定できない、自分亡き後の次の次の遺産相続のことまでも決めておくことができるのです。

    例えば、子どものいない夫婦の場合、自分が死んだときは妻にその財産が使えるように指定し、妻の死後は、自分の弟や弟の家族に財産を継がせる、というようなことができます。(ただし、相続人の遺留分には、十分な配慮が必要になります)また、契約によっては、相続が「争族」になることも防ぐこともできます。

    認知症はよく知られているアルツハイマー型だけではなく、脳血管性のもありますし、外傷性の後遺症によるものもあります。厚生労働省の推計によると、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、認知症患者の数が65歳以上の約5人に1人、700万人前後になるといいますから、他人ごとではありません。とりわけ、アパート経営をされている方やお子さんのいない方、認知症の配偶者のいる方、障がいをお持ちのお子さんがいる方は、元気なうちに民事信託について専門家に相談されてはいかがでしょうか。

やすだ・まゆみ

安田まゆみ(やすだ・まゆみ)
「元気が出るお金の相談所」所長。マネーセラピスト、民事信託コンサルタント。老後のお金の問題、財産管理から相続問題まで、幅広く相談を受けている。お客様の話をじっくり聴き相手の心に寄り添う独自の「マネーセラピー」は“相談すると元気が出る”と多くのファンの心を捉え、これまでの相談件数は7000件を超えている。Googleで「老後マネー相談」検索1位(2019年5月1日現在)。『人生100年時代!しあわせ老後計画』(共著)

コンテンツ提供:ハルメク

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