【人生100年時代コラムVOL.44】耳の「聞こえ」を守る新習慣

日常の騒音、生活習慣病の影響で難聴になる人が増えています

2019/7/18

日常の騒音、生活習慣病の影響で難聴になる人が増えています

日常生活の騒音や生活習慣病などから「難聴」になる人が増えています。聴力を低下させる一番の原因は、騒音。糖尿病などの生活習慣病も、難聴の進行に拍車をかけます。耳を守る生活習慣をお伝えします。

  • 難聴の原因は加齢だけに限りません

    年を取ると誰でも耳が遠くなると考えがちですが、実はそうではないと国際医療福祉大学病院・耳鼻咽喉科教授の中川雅文(なかがわ・まさふみ)さんは話します。

    「一般に40歳を過ぎる頃から軽い難聴の兆候が現れ始め、60代以降になると日常の会話に不自由を感じる人が増えてきます。ただ、その一方で高齢になっても聴力が衰えない人がいるのも事実。実は、聴力の低下は老化現象というより、若い頃からの生活習慣によるところが大きいのです。国立長寿医療研究センターの研究でも、難聴と明らかな相関関係があったのは、騒音と動脈硬化だったと報告されています」

    中川さんによると、難聴の一番の原因は騒音だといいます。そもそも外界の音は空気の振動として耳の中に入り、内耳にある「蝸牛(かぎゅう)」というカタツムリの形をした器官に伝わります。ここには毛の生えた有毛細胞がびっしりと並び、振動が伝わるとダンスを踊るように振動します。このときに電気信号が生じ、それが脳に伝わって「音」として認識されるのです。

    耳の構造

    「騒音にさらされると、この有毛細胞が傷つき、毛が抜け落ちてしまいます。本来、有毛細胞にはダメージから回復する力が備わっているのですが、動脈硬化などで血流の悪い状態が続くと、自己修復が間に合わず、有毛細胞が死んでしまいます。この結果、難聴が進むのです」(中川さん)

    難聴になると、聞こえなくなった音を補うように耳鳴りも起こりやすくなります。

  • 大きな音にご用心!音楽や動画の長時間視聴は耳の負担増に

    大きな音にご用心!音楽や動画の長時間視聴は耳の負担増に

    私たちの身の回りには車や電車の騒音、街の喧騒など、大きな音があふれています。最近はスマホで通話をしたり、イヤホンをつけて音楽を聴いたりする人も多いですが、電車内などの騒々しい場所では自ずと音量が大きくなり、耳にとっては大きな負担に。

    「その結果、急増しているのが“スマホ難聴”や“イヤホン難聴”です。難聴になるリスクは、音の大きさと音にさらされた時間で決まります。例えば、携帯電話をガラケーからスマホに変えて音楽や動画などの視聴時間が増え、5年後くらいに軽い難聴になるという人も少なくないのです」

    また生活習慣病に気を付けることも重要です。「糖尿病や高血圧、脂質異常症などは動脈硬化と関係が深く、難聴のリスクを高めます」と中川さん。体のケアも難聴予防につながるのです。

  • 難聴を引き起こす3つの代表的な病気

    急激に聞こえが悪くなる病気として、「急性低音障害型感音難聴」「メニエール病」「突発性難聴」があります。

    急性低音障害型感音難聴は突然、低い音が聞こえにくくなったり、耳鳴りが起こったりする病気。メニエール病はぐるぐる回るめまい発作とともに難聴や耳鳴り、吐き気などが起こります。突発性難聴はある日突然片耳が聞こえなくなる病気で、めまいや吐き気を伴います。「これらの病気はストレスや疲労、睡眠不足などが引き金になることが多いようです。聴力が急激に落ちたら放置せず、2〜3日以内に耳鼻咽喉科を受診してください」と中川さん。特に突発性難聴は治療が遅れると聴力が戻らなくなることもあるので要注意。

  • 騒音を遠ざけ、体をケアするあなたの耳を守る新習慣

    紫外線から肌や目を守るのと同様、耳も騒音から守ってあげましょう。また体をよい状態に保つことも、耳の健康につながります。ここでは耳を守る習慣を紹介します。

    (1)うるさい場所では耳栓をつける

    難聴予防の一番の対策は、騒音を避けること。そこで活用したいのが、「耳栓(イヤー・プロテクター)」です。「音を完全にシャットアウトするものから少しだけ耳の負担をやわらげるロックコンサート用のものまで種類もいろいろありますから、用途に合わせて選ぶといいでしょう。私も財布に3種類の耳栓を入れ、活用しています」と中川さん。駅や人混み、居酒屋、カラオケ店など、騒音が気になったらサッと装用を。また図書館や公園など、静かな場所で耳を休めてあげることも大切です。

    (2)テレビを見るときは離れ過ぎない

    テレビを見るときは離れ過ぎない

    テレビのボリュームが大きくなり、家族から「音が大き過ぎる」とクレームが……。このような場合、実はテレビを見る位置が間違っていることが多いといいます。「昔のブラウン管テレビからは電離放射線が出ていたので離れて見る必要がありましたが、今の液晶テレビは近くで見ても問題ありません。テレビ画面の高さの3〜5倍の距離で見ると声がよく聞こえるようにできているんです」と中川さん。難聴と思っていたが、見る位置を変えただけでよく聞こえるようになったという例も多いそうです。

    (3)耳掃除は1か月に1回程度

    オイルをつけた綿棒で優しく拭く。聞こえが悪くなった原因は耳垢……。そんな例も多いそう。耳垢が多量にたまって起こることもありますが、意外に多いのは耳掃除によって耳垢を奥に押し込んでしまうケース。「特に湿った耳垢だと起こりやすいのです。耳掃除を頻繁にしている人は要注意」と中川さん。入浴後に毎回、綿棒で耳の中をきれいにしている人も多いのでは? 過度な耳掃除は耳の中の皮膚を傷つけ、炎症やかゆみを招くことも。「耳掃除は月に1回程度で十分。綿棒にオイルをつけて、なでるように拭いてください」(中川さん)。

    耳掃除は1か月に1回程度

    耳掃除に使う綿棒にはオイルをつけ、なでるように拭きましょう。頻度は月1回程度に。

    (4)水分をこまめにとる

    脱水は耳にとっても大敵。耳鳴りは脱水の初期症状のこともあります。脱水で体液が不足すると、血流が悪くなるだけでなく、蝸牛内のリンパ液にも悪影響を及ぼします。のどの渇きを感じたときにはすでに脱水は始まっています。小まめに水分を補いましょう。

    (5)お肉もしっかりとって、耳に必要な栄養素を補う

    耳鳴りや難聴のある人の約半数は、ビタミンB12が足りないそう。また亜鉛不足も聴力に悪影響を及ぼすといいます。「最近は野菜中心の食生活をしている人が多いですが、耳に必要なこれらの栄養素を効率的に補うには、肉もしっかり食べた方がいい」(中川さん)とのことです。

なかがわ・まさふみ

中川雅文(なかがわ・まさふみ)
国際医療福祉大学病院 耳鼻咽頭科教授
1960(昭和35)年、徳島県生まれ。86年、順天堂大学医学部卒業。米イリノイ大学シカゴ校電子工学部、脳機能研究所などで聴覚神経生理学、脳機能画像を研究。近著に『耳がよく聞こえる!ようになる本』(河出書房新社刊)など。

※この記事は、「ハルメク」2018年10月号健康特集「耳の聞こえを守る新習慣12」を再編集しています。
取材・文=佐田節子 イラストレーション=ねもときょうこ 構成=大矢詠美(ハルメク編集部)
コンテンツ提供:ハルメク