【人生100年時代コラムVOL.49】憧れの田舎暮らしを成功させるためのコツ

「田舎暮らしに向く人・向かない人」の違いとは?

2019/8/29

「田舎暮らしに向く人・向かない人」の違いとは?

写真=PIXTA

老後は自然豊かな田舎でのんびり暮らしたい!そんな願望を持つシニアも少なくありません。しかし、田舎暮らしを楽しむには、田舎の現実も知っておいた方がよさそうです。自らも福島で田舎暮らしを実践し、全国の移住者を取材し続ける専門家が、田舎暮らしを成功させるコツを伝授します。

  • 依然根強いシニア層の田舎暮らし願望

    60代を核とするシニア世代の田舎暮らし願望は根強いものがあります。とはいえ、かなり昔と状況は変わっているので、少し過去に遡りたいと思います。もう干支が一回りしてしまいましたが、「2007年問題」という言葉をご記憶の方も少なくないでしょう。団塊の世代の定年退職が始まった年で、これを機にシニア層の地方移住が一気に進むと見られていました。

    その動きを先導したのが2003年に設立された認定NPO法人「ふるさと回帰支援センター」です。「100万人のふるさと回帰・循環運動」を展開、2008年に同センターの利用者は50代以上が69.6%を占めていましたが、この数値は2017年に27.8%まで減少します。

    つまり、現在は40代以下の子育て世代が地方移住の担い手になっているのです。理由はいくつかありますが、特に「日本創成会議」座長の増田寛也氏が「2040年に896の自治体が消滅する」と発表した、いわゆる増田レポートの影響が大きかったと言えます。それをきっかけに全国の自治体が本気で人口減少対策に動き、子育て世代を中心とする移住者争奪戦を展開し始めたからです。

    では、シニア世代の田舎暮らし願望は消えたのか。そんなことはありません。総務省が2017年に東京都23区および政令指定都市に住む3,116人に行ったアンケート調査では、農山漁村地域に「住む予定がある+ゆくゆくは移住したいと思う+条件が合えば移住してもよい」と答えたのは、50代で男性30.1%、女性18.6%、60代で男性24.1%、女性14.6%。全世代平均の30.6%に比べればやや落ちますが、シニアのマーケットは依然として無視できないものがあります。

    筆者が主に執筆活動をしている月刊誌『田舎暮らしの本』(宝島社)では、シニア世代が住みたい田舎のアンケート調査も行っています。2019年は、第1位から福岡県北九州市、山形県酒田市、栃木県栃木市、愛知県豊田市、鳥取県鳥取市、山口県山口市、宮崎県延岡市、静岡県静岡市、新潟県新潟市の順になりました。地方都市、とりわけ県庁所在地に人気が集まっているのは、利便性を重視するシニア層が多いことを物語っています。

  • 地域住民の相互扶助こそ田舎暮らしの基本⁉

    地域住民の相互扶助こそ田舎暮らしの基本⁉

    移住者同士の交流も、貴重な情報交換の場になる

    この記事の目的はシニアの「田舎暮らしに向く人・向かない人」の傾向を明らかにすることですが、その前に、まず「田舎とは何ぞや⁉」というところから話を始めなければなりません。なぜなら、「田舎暮らし=自然の中でのんびり暮らす」ことだと勘違いしている人が少なくないからです。

    どの田舎も過疎化と少子高齢化が進んでいることは事実ですが、昔と変わらない部分もあります。それはとりもなおさず、都会で失われた地域社会の伝統です。

    道路脇の草刈り、用水路の清掃、空き缶拾い、冠婚葬祭など、田舎の人たちはお互いに助け合いながら地域を守ってきました。そういう共同作業に参加できない移住者は、地域トラブルを起こしやすいのです。

    堰普請(せきぶしん)の様子

    地域住民が総出で田んぼの用水路を清掃する堰普請(せきぶしん)。こういう共同作業に参加できない人は、田舎暮らしに向いていません

    二言目には、「都会ではこうだった」とか「田舎は古くさい」と口走るような人も、田舎暮らしには不向きと言えます。ただ、地元の人たちも移住者がすべて地域住民と同じことをできると考えているわけではないのです。飲み会や宗教行事、政治活動など、人によっては抵抗感を感じるということはわかっています。

    大事なのはコミュニケーションで、できないことはできないとはっきり相手に伝えること。参加するのかしないのか、どっちつかずの態度をとり続けていると、何でもできると誤解を招きかねません。

  • 田舎暮らし成功の鍵は、不便不都合を楽しめる前向きな姿勢

    田舎暮らし成功の鍵は、不便不都合を楽しめる前向きな姿勢

    寒さが苦手な人は、薪ストーブなど暖房計画もお忘れなく

    地域トラブル以外で目立つのは、新規就農者の失敗です。シニア世代が農業を始める「定年帰農」という言葉が、一時期、流行語になったことがありました。しかし、生活そのものは年金で支えている人がほとんど。また、自給自足すればお金なしで暮らせる、という甘い発想で失敗する人もいます。自分で野菜を作れば食費が安く抑えられることは事実ですが、それは手作業で行う小規模自給を実践した場合。何十万円もする農機具を導入したのでは本末転倒、スーパーで野菜を購入したほうがよほど安く上がります。

    ほかにも私が目にしてきたシニアの失敗例を挙げれば、パートナーの合意を得ずに移住を単独で決行して離婚に至った人、雪や寒さを甘く見てひと冬で都会へ逆戻りした人、人づきあいを避けて山奥へ移住したものの買い物や通院で不便を強いられた人、などがいます。

    田舎暮らしで一番大切なのは、目的意識をはっきりさせることです。

    庭や畑の土いじりをしたい、釣りを楽しみたい、温泉三昧の暮らしをしたい、陶芸や木工の趣味を極めたいなど、何でもいいのです。その目的によって移住候補地は自ずと絞られてきますし、セカンドライフの生きがいも確かなものになります。

    田舎暮らしで野菜作りをする人

    家庭菜園を目的に田舎暮らしを始めるシニアは多く、それも生きがいになります

    私が取材で知り合った60代の移住者は、「お手本にしているのは地元のおじいちゃん、おばあちゃんたちです。野菜の保存法、キノコの見分け方、何でも知っている。畑のやり方も一から教えてくれました。この出会いがなければ、第二の人生はつまらないものになったでしょうね」と話していました。

    不便、仕事が少ない、プライバシーが保てないなど、田舎はいいことばかりではありません。田舎暮らしに向いているのは、それらを前向きにとらえる心の余裕を持てる人と言っていいでしょう。

やまもと・かずのり

山本一典(やまもと・かずのり)
1987年月刊誌『田舎暮らしの本』(宝島社)創刊から活動しているフリーの田舎暮らしライター。2001年に福島県都路村(現・田村市都路町)に移住し、自ら田舎暮らしを実践している。全国の「田舎」を取材するかたわら、自治体やNPOなどで地方移住希望者向けのセミナー講師も務める。『さんざん働いてきたから 定年後は夫婦で田舎暮らし』『失敗しない田舎暮らし入門』『お金がなくても田舎暮らしを成功させる一〇〇カ条』(いずれも洋泉社刊)など著書多数。

文・写真=山本一典
コンテンツ提供:ハルメク