【人生100年時代コラムVOL.85】疲れやすいなどの不調が改善

「呼吸筋ストレッチ」で老化は防げる!

2020/6/4

「呼吸筋ストレッチ」で老化は防げる!

少し急いで歩いただけなのに、息がハァハァと乱れてしまう。何だか呼吸が浅く、息苦しく感じる……。こうした不調は、呼吸の衰えのサイン。放っておくと、知らず知らずのうちに心身の老化を進ませてしまいます。呼吸を若返らせる「呼吸筋ストレッチ」で健やかな心身を目指しましょう。

  • あなたの呼吸の老化度をチェック!

    最初に質問です。次のようなとき、息苦しさを感じたことがありますか?

    • 歩いているとき
    • 物を運んでいるとき
    • しゃがんで掃除をしているとき
    • 手仕事をしているとき
    • お風呂に入っているとき
    • 大きな声でしゃべっているとき

    上記の項目に当てはまるほど、呼吸機能が低下している可能性があります。「息苦しいな」と感じるのは、老化の重大なサインです。当てはまる数が多かった人も、少なかった人も、呼吸は加齢とともに確実に衰えますから、要注意です。

  • 健康の土台は「日々の呼吸」

    健康のために、「食事に気を付けよう」「足腰を鍛えよう」と心掛けている人はきっと多いはずです。でも「呼吸に気を付けよう」「呼吸を鍛えよう」という人はあまりいないのでは?

    「呼吸をするのは当たり前のことに感じられて、『気を付けよう』『鍛えよう』という発想には結びつきにくいかもしれません。しかし、年とともに呼吸は確実に衰えていきます。何もせずに放っておくと、年々呼吸の老化が進み、それに伴って心身の健康が大きく損なわれる恐れがあります」こう話すのは、東京有明医療大学学長の本間生夫さん。一般的に、呼吸の衰えは60代頃から目立ってくるといいます。

    呼吸筋の種類

    そもそも呼吸は、肺が自らの力で膨らんだり縮んだりして行われているわけではありません。その周りにある呼吸筋(上図)が収縮することで肺を広げたり縮めたりして、空気を出し入れしています。

    「呼吸筋は、加齢によって硬くなって衰え、収縮運動を十分に行えなくなります。肺自体の弾力も失われ、空気を出し入れする力はだんだん落ちてしまうのです」と本間さん。加齢とともに呼吸筋や肺の弾力性が衰えると、息を吐いた後に肺の中に残る余分な空気の量が増えていきます(下のグラフ)。すると、新たな空気をしっかり吸えなくなり、息苦しさを感じたり、浅くて速い呼吸になったりするのです。

    年とともに増える肺の残気量

    【解説】「残気量」とは、息を目いっぱい吐き切ったつもりでも肺に残っている空気の量。機能的残気量とは、安静時の呼吸で肺に残っている空気の量。加齢により呼吸筋や肺の弾力性が衰えると、肺の中に余分な空気が残りやすくなります。出典:本間生夫著『すべての不調は呼吸が原因』

  • 呼吸筋を鍛えれば、健康寿命は10年延ばせます

    こうして空気が十分に入ってこなくなると、体はエネルギーをうまく生み出せなくなり、筋肉も脳も胃腸などの臓器も活動が滞って働きや代謝が低下してしまいます。その結果、「疲れやすい」「胃腸の調子が悪い」「眠れない」などの不調や病気を招くことに。さらに「呼吸が衰えると自律神経が乱れるため、少しのことでイライラしたり、落ち込んだり、心の不調も抱えやすくなります」と本間さんは言います。

    そこで、呼吸の力を若返らせる方法として本間さんが提唱しているのが「呼吸筋ストレッチ」です。「健康に生きられるかどうかは、呼吸の力をどれだけキープできるかで決まります。日本人の健康寿命と平均寿命の差は10年。私は、呼吸筋をしっかり鍛えて強化していけば、健康寿命を10年引き延ばせると考えています。日々のストレッチで呼吸の力をつけていきましょう」

  • 1回3分で老化を遠ざける「呼吸筋ストレッチ」

    基本の姿勢

    足は肩幅に開き、背すじを伸ばしてリラックスします。
    ※体が硬い方、痛みのある方は、いすに座って行いましょう。

    ストレッチ1:肩の上げ下げ

    吸う筋肉を鍛えます。3~6回を目安に行いましょう。

    ストレッチする部位
    ストレッチする部位
    1. 鼻から息をゆっくり吸いながら、肩を上げていく(肩を上げたとき、かかとが地面から離れないように)。
    2. 口から息をゆっくり吐きながら、肩を後ろに回して下ろす(肩の力を抜いて動かす)。

    ストレッチ2:背中・胸のストレッチ

    吸う筋肉を鍛えます。3~6回を目安に行いましょう。

    ストレッチする部位
    ストレッチする部位
    1. 胸の前で両手を組み、ゆっくり呼吸する。鼻から息をゆっくり吸いながら、背中を丸め、腕を前に伸ばしていく(お腹をへこませ、大きなボールを抱えるようなイメージで)。
    2. 口から息をゆっくり吐きながら、元の姿勢に戻す(重心をかかとに置いて、ひざを軽く曲げると体が安定する)。

    ストレッチ3:胸壁のストレッチ

    吐く筋肉を鍛えます。3~6回を目安に行いましょう。

    ストレッチする部位
    ストレッチする部位
    1. 腰の後ろで両手を組み、鼻から息をゆっくり吸う。
    2. 口からゆっくり息を吐きながら、両腕を下へ伸ばしていく。元の姿勢に戻し、ゆっくり呼吸する(手を後ろに引き下げながら胸を張るような体勢で。無理な場合は後ろ手を組まずに行う)。
  • もともとは呼吸器疾患の患者のために開発されたストレッチ

    呼吸筋には、息を吸うための吸息筋と、吐くための呼息筋があります(最初の図参照)。「吸息筋と呼息筋は連携しながら息を出し入れしているため、バランスよく鍛えることが大事。ここで紹介するストレッチを行うと、呼吸筋はしなやかな動きを取り戻し、深くゆったりと呼吸できるようになります」と本間さんは説明します。

    呼吸筋ストレッチは、もともと呼吸器疾患の患者さんのために開発されたもので、その効果は医学的にも証明されています。肺の働きが低下し、少しの動きでも息切れしてしまうCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の患者さんが呼吸筋ストレッチを3か月間実践した研究では、呼吸困難が大きく改善され、生活の質が高まったという結果が出ました。

    さらに、東日本大震災でトラウマ(心的外傷)を受けた子どもたちのケアにも活用され、心身の不調が減少したことも確認されています。

  • ウォーキングと併せて行えば、さらに呼吸の力が若返る

    胸の呼吸筋の働きを向上させるのに、ウォーキングは一番手軽で続けやすい運動です。胸を張り、背すじを伸ばして歩くと、胸郭が十分に広がり、息を大きく出し入れできます。呼吸筋ストレッチと組み合わせれば、さらに効果的です。

    例えば、「呼吸筋ストレッチの1と2を行う→10〜15分歩く→呼吸筋ストレッチ1と3を行う→10〜15分歩く」といった具合にやってみましょう。歩くとすぐ息切れするような人も、呼吸筋ストレッチをしてから歩けば、グッと楽に歩けるようになるはずです。

  • こんな習慣も呼吸の力を高めます

    普段から姿勢をよくする

    姿勢をつくる筋肉と呼吸筋は同じ筋肉です。猫背だったり、背中を丸めていたり姿勢が悪い人は、おのずと呼吸が浅くなります。普段から胸を張り、背すじを伸ばしましょう。

    長く声を出したり、歌ったりする

    朗読や詩吟、カラオケなどで大きく長く声を出していると、大きく長く息を出し入れすることにより、深くゆっくりした呼吸が身につきます。お風呂で歌うこともおすすめです。

    息を吐き切るトレーニングをする

    年とともに「息を吐いた後に肺の中に残る空気の量」が増えます。意識的に息を吐き切って、肺の中の空気を出し切るトレーニングをしましょう。

ほんま・いくお

本間生夫(ほんま・いくお)
1948(昭和23)年生まれ。東京慈恵会医科大学卒業。医学博士。86年より昭和大学医学部第二生理学教室教授、2013年より東京有明医療大学副学長、17年より東京有明医療大学学長。専門は呼吸神経生理学。日本情動学会理事長、NPO法人安らぎ呼吸プロジェクト理事。著書に『すべての不調は呼吸が原因』(幻冬舎新書)。

※この記事は、「ハルメク」2018年11月号に掲載した記事を再編集しています。
取材・文=五十嵐香奈(編集部)イラストレーション=金子なぎさ
コンテンツ提供:ハルメク

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