【人生100年時代コラムVOL.87】今こそ見直したい

石川と山形で見つけた丁寧な暮らしとレシピ

2020/6/18

石川と山形で見つけた丁寧な暮らしとレシピ

家具や道具は壊れたら直す、食材は根や皮までいただく……。手を掛ければ、それは心と体の栄養になります。かつては日本で当たり前だった丁寧な暮らしが、今、再び注目されています。食にこだわった丁寧な暮らしが注目される、石川と山形の二人の女性を、レシピとともに紹介します。

  • “もったいない”を味わい楽しむ暮らし/醤油店3代目おかみ・鳥居正子さん

    醤油店3代目おかみ・鳥居正子さん

    石川県七尾市、能登の古い街並みが残る一本杉通りにある、小さなしょうゆ店。ちょろちょろちょろ……。ゆっくりと搾り出される生じょうゆのほの甘く香ばしい匂いが漂います。すべて手作業でしょうゆを造る「鳥居醤油店」の3代目おかみ・鳥居正子さん(63歳)は、ものを生かし切る達人でもあります。

    「小さな店で、しょうゆだけでは食べていけんから」と、代々男は働きに出て、女が店を担ってきた鳥居家。ここに嫁いだ正子さんがしょうゆ造りを任されて、25年以上になります。こだわってきたのが、能登の大豆と小麦を使うこと、そして手仕事です。

    「幼い頃、お腹が痛くなると、母が手を当ててくれ、痛みがひいた記憶があるの。人間の手には不思議な力がある。だから極力手をかけたい」。

    “もったいない”を味わい楽しむ暮らし/醤油店3代目おかみ・鳥居正子さん

    正子さんは、ゆでた大豆と炒った小麦に麹菌をかけ、素手で丁寧に混ぜた後、室(むろ)で4日寝かせ、手で返しながら麹を育てます。それを杉樽にため、毎日のように棒で混ぜ、二夏かけてもろみに。麻袋に入れて搾ると、生じょうゆが滴ります。薪を燃やして和釜で火入れし、一本一本瓶詰めします。

    一貫しているのは、正子さんの「もったいない」の精神です。年代物の道具を使い、薪は廃材、瓶は再利用しています。もろみの搾り粕は「香りがよくて体にもいい」と漬物床や乾燥粉末にして活用。店の暖簾(のれん)も、もろみを搾る麻袋をリメイクしたものだそう。「どう生かすか、アイデアを出すのが好きなんよ」。そう話す笑顔は少女のようでした。

    鳥居醤油店

    「鳥居醤油店」…明治期に建てられた土蔵造の店舗は、国登録有形文化財。店内の土間に踏み入ると、ふわりとしょうゆのいい香りが漂う。看板商品の「木樽天然仕込醤油」や「モロトモ漬物床」が人気。http://www.toriishouyu.jp/

  • 大根の皮もおいしく。鳥居さんのレシピ

    簡単にサッと作れるものばかりなので、詳しい分量は載せていません。作りやすい量を、味のあんばいを見ながら、気楽に作ってみてください。

    大根の皮のきんぴら

    大根の皮のきんぴら

    フライパンにゴマ油と鷹の爪を熱し、細切りにした大根の皮を炒める。みりん、だしつゆ、干しエビを加え、仕上げにしょうゆで香りづけをする。

    イイダコの煮付け

    イイダコの煮付け

    土鍋に酒、しょうゆ、みりん、砂糖少々を入れ、イイダコが軟らかくなるまで煮る。下ゆでした大根と長イモはイイダコの煮汁で別々に煮る。

    大豆の天ぷら

    大豆の天ぷら

    麹を仕込む時期に作る鳥居家の定番。てんぷら粉と水を合わせ、ゆでた大豆を加えて軽く混ぜ、熱した油でからりと揚げる。大豆水煮缶でも可。

    豚ロースの粕漬け

    豚ロースの粕漬け

    しょうゆを搾った粕でできた「モロトモ漬物床」をオレンジジュースでゆるめ、豚ロースの厚切りを半日漬ける。あとはオーブンで焼くだけ。

  • 病を経て手に入れた“身の丈”の暮らし/民宿オーナー・小野寺美佐子さん

    民宿オーナー・小野寺美佐子さん

    庄内平野の南部に位置する山形県鶴岡市。田んぼや畑に囲まれるように、農家レストラン「菜なぁ」があります。オーナーの小野寺美佐子さん(65歳)一家が住む築130年の日本家屋を改装した店は、どこか懐かしい雰囲気。次々訪れるお客さんの目当ては、自家栽培の有機米と旬の野菜を使った優しい味の郷土料理です。

    50歳でこの店を開くまでに、美佐子さんにはいくつか転機がありました。結婚・出産を経て、休耕田で子どものために有機野菜を作り始めたのが20代半ば。知人から「分けてほしい」と頼まれたのをきっかけに、31歳で野菜の宅配を始めます。大きな転機は40歳。がんと告知されたのです。

    「当時、一番上の子が中学1年で、末っ子はまだ幼稚園。5人の子を残して死ぬわけにいかないと、暮らしも食も見直して、地元の旬のものを食べる身土不二(しんどふじ)を心掛けるようになりました」と振り返ります。

    病を経て手に入れた“身の丈”の暮らし/民宿オーナー・小野寺美佐子さん

    病を機に、新たな生き方を模索した美佐子さんは、自宅を開放して民宿を始めます。そして「食の力を伝えたい」と50歳で農家レストランを開店。徐々に店が軌道に乗って忙しくしていた60歳のとき、再び重いがんに侵されました。

    「もう仕事復帰は無理だと思い、レストランは息子に託しました。でも100日以上入院するうちに、何だか元気になってきたんです」と美佐子さん。退院後、空き家を活用して、一人で客室4室だけの小さな民宿「農」を始め、庄内の郷土食の普及にも力を入れるようになりました。

    「こだわりの野菜を食べ切れるだけ作り、今の体力に見合うだけの仕事をする。身の丈に合う暮らしを楽しんでいきたいです」。年を重ねてたどり着いた食と暮らしです。

    やさいの荘の家庭料理 菜ぁ

    「やさいの荘の家庭料理 菜ぁ」…地味深い郷土料理を求めて山形県外からも観光客が訪れる人気店。息子たちにここを任せ、美佐子さんは同じ鶴岡市で始めた民宿「いこいの宿 農」を切り盛り。http://www.e-naa.com/

  • 手間の分だけ身にしみる、小野寺さんのレシピ

    野菜にこだわった山形の郷土食です。手に入らなければ他の材料で代用しても結構です。

    いとこ煮

    いとこ煮

    【材料】(作りやすい量)
    もち米……2カップ
    小豆……1カップ
    砂糖……240g
    塩……適宜

    【作り方】

    1. もち米は洗って一晩水に浸しておく。
    2. 小豆は軟らか過ぎない硬さにゆで、ゆで汁2カップは取っておく。
    3. 炊飯器に小豆を入れて平らにならし、もち米をのせ、小豆に煮汁を加えて普通に炊く。
    4. 炊き上がったら砂糖と塩を加え、箸で所々に穴をあけ、水分がなくなるまで再び炊飯器で炊く。
    5. 混ぜ合わせたら出来上がり。

    赤カブ煮

    赤カブ煮

    【材料】(作りやすい量)
    赤カブ(なければカブ)……1㎏

    1. 砂糖……80g
      塩……35g
      五倍酢……320mL

    【作り方】

    1. 赤カブを6等分に切る。
    2. Aの調味料にカブを入れ、2kgの重しをする。
    3. 水が上がったら軽い重しに変える(20日くらいで食べ頃)。

    弁慶飯

    弁慶飯

    【材料】(2個分)
    ご飯……茶碗2杯分
    みそ……大さじ2
    すいおう(※)の葉塩漬け(または青菜漬け)……4枚
    ※すいおうは、葉も茎もすべてを食することができるサツマイモの品種。ポリフェノールやビタミンが豊富な健康食材です。

    【作り方】

    1. 丸いおにぎりを握り、みそを付ける。
    2. 1のおにぎりにすいおうの葉を巻き、トースターで焼き色が付くまで焼く。

    芋煮

    芋煮

    【材料】(2人分)
    里イモ……100g(一口大に切る)
    ニンジン……60g(斜め薄切り)
    コンニャク……60g(手でちぎって下ゆで)
    豚肉……60g(3~4cmに切る)
    シイタケ……2枚(石づきを取る)
    厚揚げ……1/2枚(一口大に切る)
    長ネギ……60g(斜め切り)
    酒、みりん……各大さじ1
    だし汁または水……3カップ
    みそ……大さじ3~4

    【作り方】

    1. 鍋にだし汁(または水)を入れ、里イモ、ニンジン、コンニャク、酒、みりんを加え、里イモが軟らかくなったら、豚肉、シイタケを加える。
    2. みそで味を付け、厚揚げ、長ネギを加える。

    すいおうの炒め煮

    すいおうの炒め煮

    【材料】(2人分)
    すいおう(フキなどで代用可)……80g
    糸コンニャク……30g(3cmに切る)
    ニンジン……20g(千切り)
    薄揚げ……1/2枚(千切り)
    酒、みりん……各大さじ1
    しょうゆ……大さじ1/2
    だし汁……100cc

    【作り方】

    1. すいおうは皮をむき、ざく切りに。
    2. フライパンに油(分量外)を熱し、糸コンニャクを炒め、ニンジン、すいおうの茎を加え、しばらくしたら葉も加えて炒める。
    3. だし汁を入れ煮立ったら、酒、みりん、しょうゆを加え、薄揚げを入れて、ひと煮立ちさせる。

※この記事は、「ハルメク」2018年11月号に掲載した記事を再編集しています。年齢等は取材当時のもの。
取材・文=五十嵐香奈(ハルメク編集部) 撮影=中川まり子
コンテンツ提供:ハルメク

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