【人生100年時代コラムVOL.98】がんや認知症などのリスクを回避

「歯周病菌」から全身の健康を守る、7つの習慣

2020/9/10

「歯周病菌」から全身の健康を守る、7つの習慣

歯周病になると、糖尿病やがん、心臓病、認知症などさまざまな病気のリスクが高まると近年の研究でわかってきました。理由は、歯周病を引き起こす細菌が血液の流れに乗って全身に広がり、“慢性炎症”を引き起こすから。歯周病菌を遠ざけ、健康を守る習慣を紹介します。

  • あなたのお口は大丈夫?

    まずは、次のチェック項目にお答えください。1つでも当てはまる人は歯周病の可能性があります。

    • 朝起きたときに、口の中がネバつく
    • 歯磨きをすると、歯ぐきから血が出る
    • 歯の隙間に食べ物がはさまりやすい
    • 歯ぐきの色が赤く、腫れている
    • 歯ぐきがムズムズする
    • 歯が長くなった
    • 口臭が気になる
  • 歯周病があると、すべてのがんの死亡率が1.33倍に

    成人の約8割がかかっているという「歯周病」。歯ぐきの腫れや出血、口臭など、前述のチェックで思い当たる症状があった人も多いのではないでしょうか。

    歯周病になると歯を支える組織が徐々に破壊されて歯がグラグラしたり、抜け落ちたりしますが、実はこの病気の本当の怖さは他にあると、鶴見大学歯学部探索歯学講座教授の花田信弘さんは話します。

    「歯周病は、歯周病菌によって引き起こされる感染症の一つ。歯周病菌は口の中で悪さをするだけでなく、炎症を起こした歯肉の隙間から血管内へと忍び込み、血流に乗って全身に広がっていきます。

    このように歯の病気が原因で血液中に細菌が入り込んだ状態を『歯原性菌血症』と呼びます。実は、これが糖尿病や心臓病、脳卒中、がんなど、さまざまな病気の発症や悪化のリスクを高めるとわかってきたのです」

    歯周病があると、すべてのがんの死亡率が1.33倍に

    炎症が起こった歯肉から歯周病菌が侵入し、血管内へ。歯周病菌の毒素によって血管内膜に慢性炎症が起こると、動脈硬化が進みます

    最近の研究によると、歯周病があるとすべてのがんの死亡率が1.33倍に、中でも膵臓(すいぞう)がんでは2.32倍に上がるとの報告も。

    歯周病菌が血液中を巡る速さにも驚かされます。歯周病の人が抜歯をしたり、強く歯磨きをしたりすると、なんとその1分半後には上腕部の静脈で歯周病菌が検出されたと報告されているのです。

    「歯肉の傷から血管内に入った菌が、心臓や肺を経てあっという間に上腕にたどり着いたわけです。菌は血流に乗って全身にばらまかれます。実際、心臓や脳などの血管病変でも歯周病菌の存在が確認されているのです」

  • 歯周病菌が原因の慢性炎症が“万病のもと”に

    では、歯周病菌が血液中に入ると、なぜ病気が起こりやすくなるのでしょうか。その原因が「慢性炎症」だといいます。

    「これは弱い炎症がダラダラと続く状態。大きな火事ではなく、いわばボヤのようなくすぶりです。歯周病菌が持つエンドトキシンと呼ばれる毒素によって引き起こされます。毒性自体は弱いのですが、弱いからこそじわじわと慢性炎症が続き、全身の血管を少しずつ傷めていきます。この結果、動脈硬化や生活習慣病が進行していくのです」

    がんの場合も、慢性炎症によって、がんを抑制する遺伝子が働かなくなったり、がんの発生にかかわる遺伝子が発現しやすくなったりすることがわかってきました。またアルツハイマー型認知症にも、“脳の炎症”が関係しており、実際、亡くなった患者の脳内からは歯周病菌の毒素が見つかっているそうです。

    下のイメージ図は、歯周病と慢性炎症との関係をおおよその時間軸で表したものです。10~20代で歯周病が始まり、30代以降はそれによる歯原性菌血症の状態に。その結果、慢性炎症が続いて生活習慣病となり、さらにはその合併症による障害が現れてくる――。50代以降にとっては、そろそろ慢性炎症による悪影響が気になるところです。

    「対策は何歳になっても遅過ぎるということはありません。毎日の歯磨きの仕方を見直したり、歯周病の治療を受けたりすることで歯周病菌を減らし、慢性炎症の害を防ぐことができます」と花田さん。

    歯周病菌が原因の慢性炎症が“万病のもと”に

    歯周病から歯原性菌血症へ、そして慢性炎症による生活習慣病の発症と悪化へ――。歯周病から始まる慢性炎症の悪影響は、加齢とともに拡大します。なお、慢性炎症は内臓脂肪の多い肥満や喫煙、過度の飲酒などによっても起こります(出典:『歯周病が寿命を縮める』より改変引用)

  • 今日からできる歯のケア、7つの習慣

    歯原性菌血症による慢性炎症を防ぐには、敵である歯周病菌をともかく減らすこと、そして栄養を味方につけて炎症を鎮める工夫が大切です。日常生活での7つのコツを紹介します。

    習慣1:「電動歯ブラシ→歯間ブラシ→ハンドブラシ」3本のブラシを使いましょう

    歯周病菌を遠ざける基本のきが、毎日の歯磨き。細菌が増殖する前に歯ブラシで物理的にかき取りましょう。ただ歯と歯の間や歯ぐきとの境目などは、磨き残しが多くなりがち。そこで花田さんがすすめるのが、電動歯ブラシ、歯間ブラシ、ハンドブラシの3本使いです。

    「まずは歯磨剤を付けずに電動歯ブラシで磨き、次に歯間ブラシ(あるいはフロス)で歯と歯の間をきれいにします。そして仕上げは歯ブラシ(またはオフにした電動歯ブラシ)に歯磨剤を付け、磨くというよりも塗り付ける意識で。虫歯の予防効果があるフッ素を歯に塗布するのです。うがいは少量の水で1回だけでOKです」と花田さん。

    「電動歯ブラシ→歯間ブラシ→ハンドブラシ」3本のブラシを使いましょう

    歯には表裏左右の4側面があります。特に磨き残しやすいのは、歯と歯が接する左右の側面。歯間ブラシやフロスも使ってきれいにしましょう

    習慣2:定期健診は「3か月に1回」歯石ができる前にクリーニングを

    痛む、しみるなど歯に問題が起こってから受診するのではなく、定期的に歯科医院に通ってメンテナンスを。「毎日の歯磨きで取り切れない歯垢が、石灰化した歯石に変わるまでに約6か月かかります。その前にプロによるPMTC(プロフェッショナル・メカニカル・トゥース・クリーニング)で徹底的に清掃してもらうのが理想的。できれば3か月に1回、定期的に通うといいですね。歯周病や初期虫歯の発見にもつながります。初期虫歯はフッ素で治ります」と花田さん。

    また、歯周病で歯ぐきが下がり、露出した歯根部に虫歯ができる「根っこ虫歯」が大人には多いといいます。歯根部はもともと歯ぐきに埋まった場所で、表に出ているエナメル質ほど強くないため、虫歯になりやすいのだそう。「このタイプの虫歯が最近増えています。糖質中心の食事が続いて歯のケアがおろそかになると、簡単にできてしまうので気を付けて」と花田さん。ひどくなる前に歯医者さんで診てもらいましょう。

    習慣3:洗口液を使うなら「医薬部外品」を

    お口の細菌対策には、洗口液で口をゆすぐことも効果的。「ただし、殺菌効果を期待するなら、医薬部外品を選ぶことをおすすめします」と花田さんは助言します。洗口液には「化粧品」と「医薬部外品」という分類があり、このうち口臭や虫歯、歯肉炎などの予防効果を謳えるのは医薬部外品です。「医薬部外品」かどうかはラベルでチェックしましょう。

    洗口液を使うなら「医薬部外品」を

    習慣4:歯周病予防に抗酸化効果の高い食品を

    歯周病菌が増殖すると、それを攻撃しようとして体の免疫細胞が活性酸素を出します。この活性酸素は敵の歯周病菌に対してだけでなく、身内の歯周組織に対してもダメージを及ぼし、歯周病を悪化させることに。「このような活性酸素による酸化ストレスを防ぐためにも、日頃からビタミンCやE、葉酸、βカロテン、ポリフェノールなどを含む抗酸化作用の高い食品を取りましょう。またセレンや亜鉛、銅などのミネラルも体内の抗酸化酵素が働くために必要な成分です」と花田さん。抗酸化食品の代表は、野菜や果物。積極的に取りましょう。

    習慣5:「オメガ3」で炎症を防ぐ

    歯と全身を慢性炎症から守ってくれる頼もしい成分。それが「オメガ3系脂肪酸」です。アジやサバ、イワシなどの青魚に多いEPA(エイコサペンタエン酸)やDHA(ドコサヘキサエン酸)、アマニ油やエゴマ油に多いαリノレン酸がこれに当たります。「現代人の食生活では、炎症を強めるオメガ6系の脂肪酸が多くなりがちですから、意識してオメガ3系脂肪酸を取るようにしましょう」と花田さん。オメガ3系脂肪酸は熱に弱いので、青魚は刺身にしたり、アマニ油などは加熱せずドレッシングに使ったりするのがおすすめです。

    習慣6:「リジン」で細胞の再生を促す

    細胞の再生に不可欠なのが、アミノ酸。低栄養になってアミノ酸が不足すると、丈夫な歯周組織が作れず、歯が抜けることもあるそう。「特に補いたいのが、リジンという必須アミノ酸。米食やパン食だと不足しやすい」と花田さん。リジンを多く含むのは魚や肉、卵、大豆製品、乳製品など。しっかり取りましょう。

    「リジン」で細胞の再生を促す

    習慣7:糖質を取り過ぎない

    糖質の取り過ぎは、歯によくないだけでなく、慢性炎症も促します。「血糖値の高い状態が続くと、たんぱく質と糖が結び付いて終末糖化産物(AGE)が生まれます。これが炎症を促進させ、糖尿病の合併症や動脈硬化を進めるのです」と花田さんは警告します。糖質はほどほどにしておくのが賢明です。

はなだ・のぶひろ

花田信弘(はなだ・のぶひろ)
1953(昭和28)年生まれ。福岡県立九州歯科大学歯学部卒業、同大学院修了。鶴見大学教授。近著に『歯周病が寿命を縮める』(法研刊)、『白米が健康寿命を縮める~最新の医学研究でわかった口内細菌の恐怖~』(光文社新書)など。

※この記事は、「ハルメク」2018年6月号に掲載した記事を再編集しています。
取材・文=佐田節子 イラストレーション=ねもときょうこ
コンテンツ提供:ハルメク

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