【人生100年時代コラムVOL.99】家族に請求が来ることも

認知症高齢者の損害賠償責任に備えるには?

2020/9/17

認知症高齢者の損害賠償責任に備えるには?

認知症の高齢者の徘徊による事故で電車が遅れ、その損害賠償が家族に請求されたという報道を、以前目にしたことがありませんか。親が高齢になって、同じようなことが起こらないかと心配する前に対策を打ちましょう。

  • 認知症高齢者の賠償責任は家族に……

    認知症高齢者の賠償責任は家族に……

    前述の損害賠償の事例は、2007年に愛知県内で起こった事故です。認知症の91歳男性が徘徊中に電車に接触し、死亡しました。JR東海は、この事故による電車の遅延損害等の損害賠償約720万円を、別居の長男を含む男性の家族に求めて訴訟を起こしました。しかし、最高裁は16年3月に「家族は監督義務を負わず賠償責任はない」と結論付けました。

    この事例では家族の監督義務は問われなかったわけですが、認知症の高齢者に同じような事故が起こり、別居の子どもを含めた家族が賠償責任を負うような事態は十分考えられます。

    それは次のような理由から。他人を傷つけたり他人の財物に損害を加えたりすると、被害者に対して法律上の賠償責任を負うことになります。損害の程度によっては多額の賠償金を支払う義務が生じる場合もあります。

    ですが他人に損害を加えた本人に責任能力がないと、賠償責任は本人の監督義務を負う家族、つまり配偶者や子どもなどに及ぶことがあるのです。損害の責任=賠償金の支払いは、家族が果たさなければいけない場合もありうるということです。

  • 「個人賠償責任保険」でリスク対策

    「個人賠償責任保険」でリスク対策

    こうしたリスクへの備えになるのが「個人賠償責任保険」。日常生活上の偶然の事故により他人にケガを負わせたり、他人の物を壊したりして法律上の損害賠償責任を負った場合に、損害賠償金や訴訟費用などが支払われる保険です。

    自転車で歩行者をはねた、買い物中に誤って商品を壊した、飼い犬が他人にかみついてケガをさせたなど、多様な賠償リスクに備えられます。

    さらに冒頭の事例を受けて、最近では認知症の高齢者が誤って線路内に立ち入り、電車を止めてしまった場合の損害賠償金や訴訟費用等にも対応するタイプの個人賠償責任保険も出てきています。

    例えば三井住友海上は、火災保険に付帯する特約として「日常生活賠償(電車等運行不能賠償追加型)特約」を取り扱っています。電車の運行不能の補償については、電車に接触した場合を要件にするものもありますが、三井住友海上の場合、線路内に立ち入っただけで電車に接触しなくても補償対象になるのが特徴です。

    同様に、電車に接触しなくても補償が受けられるのが東京海上日動の「認知症あんしんプラン」です。こちらはケガを補償する傷害保険と個人賠償責任保険などのセット商品です。

    個人賠償責任保険は単体で加入するのではなく、損害保険会社の火災保険や自動車保険、共済の商品に特約として付加して加入するのが一般的です。クレジットカードのサービスとして付帯している場合もあります。

    ですから意識していなかったけれど、実は加入していたという方は大勢いらっしゃるかと思います。必要な補償を確保できているかどうか、次のチェックポイントにしたがって確認してみましょう。

  • 個人賠償責任保険、7つのチェックポイント

    個人賠償責任保険、7つのチェックポイント

    1.保険金額(補償の上限額)はいくらか?

    損害賠償の額は予測不能なので無制限が安心ですが、最低でも1億円は確保する必要があります。

    2.認知症対応の特約等が付いているか?

    認知症対応の特約等というのは、前述のような線路内への立ち入りに対応する補償の有無のこと。付いているものが安心です。さらに電車に接触しなくても補償されるものなら安心感が増します。

    3.保険料は適正か?

    上記の特約等の補償を加えても、個人賠償責任保険の保険料負担は年間2,500円程度が一般的。格安な負担で備えられます。

    4.被保険者の範囲はどこまでか?

    補償が受けられる被保険者の範囲を確認することも重要です。以前は被保険者の範囲は「同居の家族+別居の未婚の子(下宿の大学生など)」が一般的でしたが、最近では監督義務を負う別居の親族、つまり別居の子どもなども被保険者になる契約が増えています。

    5.示談交渉サービスの有無は?

    相手側との交渉は、時に精神的な負担も大きいものです。示談交渉付きが安心です。

    6.国内補償あるいは国内外補償か?

    国外での補償は海外旅行保険で確保できますので、国内補償だけでもOKです。

    7.免責の有無または免責金額がいくらか?

    いくらまでの損害賠償が自己負担の範囲かを確認しましょう。

  • 掛け替えを検討する場合は「補償の空白」に注意

    掛け替えを検討する場合は「補償の空白」に注意

    こうしたタイプに老親が加入していれば、老親が認知症により他人に損害を加えた場合に子どもが負う賠償責任にも備えられます。もちろん子どもの側が個人賠償責任保険に加入していれば、それで認知症の老親の損害賠償に対応できます。多様な損害賠償に備えるために、世帯ごとに個人賠償責任保険に加入しておくのをおすすめします。

    チェックの結果、現在加入中の個人賠償責任保険では補償内容が不十分なら、掛け替えを検討しましょう。特約である個人賠償責任保険だけの掛け替えはできないので、本体の保険ごと掛け替えることになります。補償の空白ができないように、新しい契約をしてから前の契約を解約するようにしてください。

しみず・かおり

清水香(しみず・かおり)
ファイナンシャル・プランナー。学生時代より生損保代理店業務に携わり、FP業務を開始。2001年に独立。相談業務、執筆・講演など幅広く活躍。財務省「地震保険制度に関するプロジェクトチーム」委員。著書に『あなたにとって「本当に必要な保険」』(講談社刊)など。社会福祉士でもある。

※この記事は、「ハルメク」2019年2月号に掲載した記事を再編集しています。
取材・文=萬真知子
コンテンツ提供:ハルメク

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